スイミングで喘息がよくなるって本当?そのメカニズムと効果を理解する

「子供の頃、喘息があったからスイミングスクールに通っていた」という話はよく耳にしますよね。昔から「水泳は喘息によい」といわれていますが、その理由はご存知でしょうか?

水泳は、水中でおこなうことから体への負担が少なく、効果的に全身運動ができるスポーツ。水泳を続けることで基礎体力や心肺機能が上がり、喘息の改善に効果があるとされています。また、温水プールという温度・湿度が一定に保たれた環境で運動できることも、水泳ならではのメリット。屋外での陸上スポーツにくらべ、外気やほこりなどの影響を受けにくいため、喘息の発作が起こりにくいのです。

子供の成長や発育に、運動はかかせないもの。喘息の発作が出にくい水泳を通して、楽しく体を動かしながら、体力や筋力が向上し、喘息の改善につながればうれしいですよね。今回の記事では、水泳が喘息にもたらす医学的な効果、水泳に取り組むときの注意点などをくわしくご紹介していきます。

1.スイミングが喘息にもたらす効果

水泳が喘息によい理由は始めにも簡単にお伝えしましたが、「水泳は喘息にどのような効果があるのか?」を具体的に解説していきたいと思います。

「喘息」とは

喘息では気管支に炎症が起き、何らかの刺激を受けることで気管支の粘膜がむくみ、空気の通り道がせまくなること。息切れ、咳、痰、ゼイゼイ、ヒューヒューという喘鳴(ぜんめい)などが起こります。自覚症状がない場合でも、気道に慢性的な炎症が起こり、空気の流れが制限される症状はすべて「喘息」と呼ばれます。

喘息発作の種類

小発作 軽い喘鳴がある程度。日常生活にほとんど支障はない。

中発作 喘鳴が明らかで、息苦しくて横になれない。食事も取りにくくなる。

大発作 苦しくて動けない。会話もとぎれとぎれになる。

重篤  呼吸が弱くなってきている。チアノーゼが出る。会話ができない。

喘息の発作は、気候や温度の変化、たばこの煙、アレルゲン、運動など、さまざまな刺激によって起こります。鼻呼吸の場合、鼻が外気のフィルターの役目をしてくれますが、運動中はどうしても口呼吸になりがち。とくに秋・冬の屋外での運動では「冷たく乾燥した空気」が直接気道に入って刺激となり、喘息発作を誘発しやすくなります。

その点、温水プールでおこなう水泳は、外気の影響を受けにくく湿度も高いので、発作が起こりにくい環境で運動できることがメリットなのです。

喘息児向けの水泳教室の開催も

喘息を持つ子供のための水泳教室も、全国各地で開催されています。泳法指導だけでなく、喘息の自己管理方法の指導、練習前の医師の診察などをおこなう教室もあり、安心して取り組むことができます。

ぜん息児水泳教室

文京区では、公害健康被害予防対策事業の一環として、ぜん息児に水泳指導を行い、心身の鍛錬及び呼吸機能の改善を図ることを目的に、ぜん息児水泳教室を開催しています。

文京区役所 予防対策課保健予防係

水泳による身体的な効果

  • 呼吸筋を強化できる
    体に水圧がかかっている状態で規則的な呼吸をおこなうことで、呼吸筋を強化することができます。

  • 肺活量アップ
    呼吸筋を強化することで肺活量もアップ。肺活量が増えると呼吸のコントロールがしやすくなり、発作の予防につながります。
  • 体力がつく
    水泳を続けることで体力がつき風邪をひきにくくなり、ひいたとしても回復が早くなります。風邪も喘息発作を引き起こすことがあるため、その原因自体を防ぐことができます。

  • 自律神経が鍛えられる
    体温よりも低い温度の水中に入ったり出たりすることで受ける皮膚刺激により、自律神経の働きが向上します。自律神経は気管支の収縮に作用するだけでなく、抵抗力をつけたり、体のバランスを整えたりという重要な役割を果たします。

水泳は陸上スポーツに比べて埃の少ない環境で、呼吸が規則正しく、過呼吸になりにくく、横になって行なう運動であり、また、水中スポーツのため湿度が高いので、気道からの水分の喪失が少なく、運動誘発喘息になりにくいとされています。さらに、1~2ヶ月以上続けることによって、運動能力の向上や気道過敏性の改善がみられます。このため、喘息治療の目的でスイミングスクールに通うことも多いようです。

引用:まつだ小児科医院HP

2.喘息を克服した水泳選手

子供の頃に喘息を発症し、克服した水泳選手はたくさんいます。2012年のロンドンオリンピック100m背泳ぎで銅メダルを獲得した寺川綾さん(ミズノスイムチーム所属)もその一人です。

寺川さんは3歳頃に喘息を発症し、症状を改善するために水泳を始めました。小学校入学前から選手育成コースに入り練習を続けていくなかで、練習で息が苦しくなって、プールから上がって休憩することも多かったそうです。しかし体力がついてくると、大きな発作は起こらなくなりました。
当時は発作を予防するために薬を飲んだりすることはなく、気合と気力で乗り切るといった状態。

「スポーツをやっている闘争心から、“喘息で苦しいけど気持ちで勝ってやる”と思い、根性でやっていました。」と寺川さん。なるべく薬に頼りたくないと思っていましたが、2009年に北島康介さんら有力選手を指導した平井コーチのもとに移り、「苦しまなくていい部分で苦しむことはない」と積極的な治療を勧められました。

その後、発作予防のために吸入薬などを使用し、喘息をコントロールしながらトレーニングを重ね、世界選手権やオリンピックで活躍する選手となったのです。2012年のオリンピックでのメダル獲得後も、2013年には世界水泳で背泳ぎ100mの日本記録を更新しています。

現役選手を引退されたあとは、水泳の普及活動、スポーツキャスターとして現在も活躍されている寺川さん。最近では、喘息の子供たちを対象とした水泳教室でも指導されています。

2016年に東京都豊島区でおこなわれた『水泳教室&喘息教室』(主催=産経新聞社、グラクソ・スミスクライン)では、喘息を抱えた18人の小学生と一緒にプールに入って指導をおこない、「喘息だからってできないことはない。ひとつでも“できること”を見つけていくことが大切。」と水泳への取り組み方や自身の喘息についての経験談などを伝えました。

3.スイミングだけで喘息は治るのか?

水泳は確かに喘息に効果があります。しかし、水泳さえしておけば喘息がよくなるというものではありません。喘息を改善するためには、3つの大切な要素を満たす必要があります。

  1. 適度な運動
  2. 環境整備
  3. 適切な投薬

1. 適度な運動

子供の喘息の場合、成長にともなって体力や筋力がつき、呼吸器の機能が向上することで症状が改善することが多いといわれています。そのためにも運動は有効で、水泳を続けることで喘息の改善が期待できます。また、先に説明したように、自律神経の働きを向上させる効果も。

しかし、喘息の症状には個人差があり、発作の程度もそれぞれに違います。症状が重いときは無理して泳がず、安静にしましょう。症状が軽度であっても、泳ぐまえにはかならず、喘鳴や咳などの症状がないか確認しましょう。

泳ぐときに注意すべきこと

  • 泳ぐ前には体調をチェック
    喘息の症状が全体的に落ち着いていても、その日の体調、気象条件などにより、発作が起こりやすいことがあります。泳ぐ前には体調に変化がないか確認しましょう。

  • 運動誘発喘息に注意
    「運動誘発喘息」とは運動によって喘息発作が誘発されること。喘息をもつ子供の約半数にみられます。運動をすると呼吸が速くなり、気道の水分が蒸発します。その結果、気道が刺激を受けやすくなり、気道が収縮してしまいます。
    水泳の場合、水面ぎりぎりで呼吸をおこなうので、気道が乾燥しにくく、運動誘発喘息の発作は起こりにくいのですが、症状が重い場合は運動によって誘発される傾向があるので注意が必要です。

  • 塩素濃度に注意
    プールの塩素に反応して発作が引き起こされることもあります。プールの塩素濃度は、遊泳用プールの衛生基準(厚生労働省)水泳プールに係る学校環境衛生基準(文部科学省)によって、「遊離残留塩素濃度は0.4㎎/L以上」と定められていますが、上限は「1.0㎎/L以下であることが望ましい」と明確な規定はありません。そのため、プールによっては塩素濃度が高い場合もあります。
    最近では塩素ガスを除去する消毒剤などを使用した「体にやさしい水」をうたっているスイミングスクールも多々あります。塩素が気になるようなら、スイミングスクールに問い合わせてみてもいいですね。

  • 練習中に発作が起こったら
    プールから上がり、体をしっかり拭いて休息しましょう。水分補給をしながら、腹式呼吸をし、痰が出やすいようにします。20~30分経っても改善しないようなら、吸入薬を使う必要も出てきます。発作時の対応については、主治医にしっかり相談しておきましょう。

2. 環境整備

喘息を改善するためには、喘息の発作を誘発する要因も理解しておかなければなりません。
要因はひとつだけではなく、複数が関係していることもあります。

喘息の発作を誘発する要因

  • アレルゲン
  • 大気汚染
  • タバコや花火の煙
  • 疲労
  • ストレス
  • 風邪のウイルス
  • 気候(気圧や気温差)

これらの要因が重なると、徐々に気管支の炎症が強くなり、喘息症状を繰り返して悪化していくという悪循環に陥ってしまうことも。発作を誘発する状況をできるだけ避けることが重要です。

意外に思われるかもしれませんが、疲労やストレスも発作の引き金になります。ストレスを受けると自律神経やホルモンが乱れ、気道の収縮を引き起こす可能性があるのです。ストレス緩和という意味でも、運動は効果があります。

3. 適切な投薬

喘息の薬には「発作が起きないようする薬」「発作が起きた時に使う薬」の2種類あります。

発作が起きないようにする薬は、「気管支拡張剤」や「吸入ステロイド」、「抗アレルギー剤」があり、せまくなった気道を広げたり、気管支の炎症をおさえたりして発作が起こりにくくする効果があります。

発作が起こったときに使う薬は、せまくなった気道を一気に広げ、つらい呼吸困難の症状を緩和する薬で、即効性があります。

喘息の改善にまず大切なことは、発作が起こらない期間をできるだけ長くすること。発作が頻繁に起こると気道の炎症がひどくなり、重症化していきます。そのためには、できるだけ早く治療を開始すること、症状が出ていないときでも自己判断で投薬をやめないことが重要です。

先に説明した「運動誘発喘息」の場合、運動前に気管支拡張剤を吸入しておくなど、未然に発作を防ぐ対策をとることで、思い切り体を動かすことができるようになります。いずれにしても、気になることがあればかならず診察を受け、主治医の指示に従いましょう。

まとめ

今回は水泳が喘息にもたらす効果と、喘息を改善するために水泳や日常生活で気をつけるべきポイントを解説しました。

水泳は喘息をもつ人にとって、おすすめのスポーツです。大切なことは、体調管理や環境整備をおこない、必要に応じて適切な治療を受けながら、症状にしたがって無理をせずに水泳に取り組むこと。水泳を続けることで、体力や心肺機能、免疫力の向上はもちろん、目標に向かってチャレンジしたり、目標を達成する喜びを感じたりすることもできます。

水泳を楽しみながら、喘息に負けない体を目指していければいいですね。

 

~監修者からヒトコト~

MIORI.A
MIORI’S EYE(耳鼻咽喉科専門医/アレルギー専門医)
喘息と診断されても、“運動してはいけない”ということではありません。むしろできる運動を楽しみながら取り組める環境を整えてあげたいですね。