発達障害のある子をスイミングスクールに入会させる前に知っておきたいこと

スイミングは子供の習い事として人気ですが、発達障害のある子の場合、集団行動が苦手であったり、こだわりが強かったりといろいろな特性があるため、

「ちゃんとレッスンを受けられるのかな?」

と、親としては不安に思ってしまいますよね。

浮力や水圧がある水中では、筋力が弱かったり運動が苦手だったりする発達障害の子供でも、効果的に運動をすることができます。また、水中で受けるさまざまな刺激が脳を活性化するという調査結果も報告されています。

今回の記事では、発達障害のある子供がスイミングスクールに通うときに知っておきたいポイントを詳しくご紹介します。スイミングを通して得られるさまざまな経験を、発達障害のある子供たちにもぜひ味わってもらいたいですね。

1.発達障害のある子もスイミングをはじめられる?

発達障害のある子供も、スイミングスクールは比較的はじめやすい習い事です。

その理由は、

  • スイミングは基本的に個人プレーである
  • プールという常に同じ環境で運動できる
  • 浮力や水圧を活かして効果的に運動できる

からです。

プールは視覚的に、

「どのレーンで、どこに向かって泳ぐのか」

といった目的がわかりやすく、注意がいろいろなところに向いてしまいがちな子供でも、集中しやすい環境と言えます。

ただし、発達障害と一言でいっても、特性はさまざま。水が大好きな子供もいれば、「感覚過敏」からプールが苦手という子供もいます。また、集団行動が苦手だったり、指示がとおりにくかったりすることも。まずは子供の特性をスイミングスクールに伝え、理解を得ることが大切です。

特別な配慮が必要な場合は、対応が可能かどうかもポイント。スイミングスクールの運営方針、コーチの理解度などによっては、子供に合わない場合もあります。

入会にあたっては、下記のようなステップで、子供の特性に合うスイミングスクールを見つけましょう。

  1. スイミングスクールに問い合わせる
    発達障害のある子供の受け入れをしているかを確認します。
    スイミングスクールの運営方針、体制、コーチの理解度、経験値はさまざま。子供の特性を伝えた上で対応が可能なのかどうか、受け入れる側の意見を聞いてみましょう。
    やらせたいからといって、無理をしてやらせてしまうと、子供が楽しめなかったり、つらい思いをしてしまったりすることも。発達障害に対する理解が双方にあることが重要です。

  2. 体験レッスンを受ける
    発達障害のある子供の受け入れが可能であれば、実際のレッスンを体験してみましょう。
    レッスン内容やコーチの雰囲気を知ることができ、子供とスクールの相性がある程度わかります。クラスあたりの子供の人数や担当するコーチの人数など、具体的な体制を確認しておきましょう。この機会に質問することもできます。

  3. 入会する
    体験レッスンを無事に終えたら、いよいよ入会です。
    スイミングスクールとの相性、受け入れ態勢などの条件が揃ったら、最終的な判断基準となるのは、レッスンを体験した子供の「楽しい!もっとやってみたい!」という気持ち。
    子供によっては新しい場所に慣れるのに時間がかかったり、水を怖がったりして、楽しめるところまでいかないことがあります。そんなときは、コーチの意見や子供の様子を参考にしてみましょう。コーチとの相性がよく、安心できる雰囲気であれば徐々に慣れて楽しめるようになりますよ。

スイミングスクールによっては、発達障害や知的障害のある子供たちを対象としたクラスを設けているところも。通常クラスよりも少ない人数、もしくはマンツーマンで、発達障害児などの指導経験が豊富なコーチがレッスンをおこないます。通常クラスではちょっと不安に思われる場合は、そのようなクラスを探してみてもいいですね。

以前から障害のある子供たち向けの健康プログラムをおこなっているYMCAでは、下記のような指導方針をかかげています。

通常のクラスでは、まずは顔を水につけて浮かべるようになってから、バタ足、クロール、背泳ぎといった順序で指導していきますが、このクラスでは一般的な指導計画にとらわれず、個々の興味や特性に合わせて指導しています。たとえば顔を水につけるのが嫌いな子には、ビート板を使ってバタ足をやってみる、浮き具を使ってクロールの手だけをやってみるなど、無理のない方法で取り組んでいきます。いろいろなことをやってみる中で、興味が広がっていきます。

引用:東京YMCA HP「障がいのある方の水泳・運動クラス」

いずれも、子供にとって「スイミングが楽しい!」と思えるスイミングスクール、コーチとの出会いが大切ですね。

2.スイミングスクール入会後に気をつけるべきこととは?

実際にスイミングスクールに入会してからは、どのようなことに気をつければよいのでしょうか?

スイミングの練習中、練習前後の子供への対応についてのポイントをご紹介します。

スイミングの練習前

スイミングの練習前にはかならず子供の体調を確認しましょう。

「幼稚園や学校での疲れが出ていないか?」
「体調を崩していないか?」

などの確認は、基本的なことですがとても大切。

発達障害の子供の多くは、体力がない、疲れやすい、ストレスを受けやすいなどの特性があり、本人が気づかないうちに疲れが溜まっていることも。水中での運動は見た目以上に体力を使います。トラブルを防ぐためにも、無理をせず、良い状態で楽しめるように、子供の様子をしっかり把握してあげましょう。

また、急に予定が変わるとパニックになりやすいタイプの子供の場合は、

「忘れ物がないか?」
「担当コーチの変更はないか?」

を確認して、変更があるときは不安にならないように、事前に説明しておくといいですね。

スイミングの練習中

スイミングの練習中、保護者はギャラリー席で見学するのでプール室内の音はほとんど聞こえません。音が聞こえないぶん、子供ががんばっている様子をしっかりみてあげてください。

「コーチの話をちゃんと聞けているか?」
「集団行動ができているか?」

など気になることもたくさんあるかもしれませんが、まずは子供ががんばっている姿を応援する気持ちで見守りましょう。

ただし、集団から外れ、一人だけ違う行動をしていると、溺れたりケガをしたりする危険性も。問題行動が出ているときは、コーチに相談してみましょう。声かけの仕方や行動への配慮など、できる範囲で対応してくれることもあります。

スイミングの練習後

スイミングの練習後は、レッスン中の子供のがんばりを具体的にほめてあげましょう。

「こんなことができるようになったね!」
「一生懸命にがんばる姿がかっこよかったよ。」

と少しずつでもステップを積み重ねることによって、どんどん自信がついてきます。達成感を味わうことで、泳ぐことをどんどん楽しめるようになりますよ。

感覚過敏について

発達障害を持つ子供に多くみられる「感覚過敏」。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、これら5つの感覚のうち、いずれかの感覚もしくは複数の感覚が過敏になることをいいます。

プールに入るのを極端に嫌がる子供の場合、

  • 水面に光が反射してまぶしい(視覚)
  • コーチや子供の声が反響してうるさく感じる(聴覚)
  • 水の冷たさが不快(触覚)
  • 水が目に入ると痛い(触覚)
  • 塩素の匂いが不快(嗅覚)

などの理由が考えられます。

過敏の度合いは人それぞれ。少しずつ慣れることができたり、年齢とともに過敏さが軽減したりすることが多いのですが、中には「どうしてもイヤ!」と拒否してしまう子供も。無理強いしてしまうと、水に入ること自体、トラウマになってしまうこともあります。無理をせず、ひとつずつできることを増やし、ステップアップしていきましょう。

どんな刺激が苦痛なのかがわかれば、具体的に対処することで、安心して取り組むことができるかもしれません。しかし、どうしても嫌がる場合は、一度水泳から離れてみても。時間が経ち、タイミングが合えば、またすんなりと始められることもあります。

3.スイミングが発達障害にもたらすメリットとは?

ここでは、もっとも大切なポイントとなるスイミングのメリットについてお話していきましょう。

発達障害の子供の多くは、体幹が弱かったり、運動が極度に苦手だったりという特徴があります。冒頭でもお伝えしたように、水中では浮力や水圧といった水の特性があるため、筋力の弱い子供でも、効果的な全身運動が可能です。

身体的メリット

水には、「浮力」「抵抗」「水圧」「水温」という4つの特性があり、それぞれに運動効果があります。

浮力
水中では浮力がはたらくため、足にかかる重力は地上の約1/10になります。筋力や体幹が弱く、陸上ではなかなか思いどおりに体を動かすことができない子供でも、思いきり全身を動かすことができ、筋力・体力の向上につながります。浮きながら左右のバランスを取ることを必要とされるので、体幹も鍛えられます。
抵抗
水には空気の約800倍もの抵抗があります。水中で腕や脚を動かすだけでも負荷がかかり、筋力アップにつながります。また、陸上では使わない筋肉を動かすことができます。
水圧
水圧が血液循環を促進し、肺にも圧力がかかるので心肺機能の向上につながります。陸上の運動では、すぐに疲れてしまう、苦手意識があるなど、続かないことの多い発達障害のある子供でも効果的な体力アップが見込めます。
水温
水中では陸上より27倍熱が奪われやすいため、 エネルギーの消費量がアップし、短い時間で高い運動効果が得られます。運動が苦手で集中力が続きにくい子供でも、効果的に運動することができます。

精神的メリット

スイミングが発達障害にもたらすメリットはほかにもたくさんあります。それらは子供にかぎらず、大人の発達障害にも効果的。以下に、精神的なメリットについて詳しく解説していきましょう。

ストレスの発散
体を思い切り動かすことでストレス発散できます。運動することによって爽快感や達成感が得られ、精神的な安定をもたらす効果も。浮力、水流といった水の感覚によっても、陸上での活動では味わえない癒し効果が得られます。
自己肯定感の向上
ゆっくりでも着実に自分のペースで上達していくことで、自信を持つことができます。日常生活ではうまくいかないことが多く、とりわけ運動面においては不器用であることが多いなかで、泳げるということは自信につながり、自己肯定感がアップします。
協調性の学習

基本的には個人プレーのスイミングですが、通常レッスンはグループでおこなわれます。グループみんなで同じ動きをしたり、順番を待ったりすることで、協調性を身につけることができます。

発達障害には「発達性協調運動障害」といって、同時に複数の動きをおこなうことを苦手とする障害の種類があり、これらに該当する子供も多くみられます。

スイミングは手と足、呼吸など、別の動きを同時に行う必要があるため、協調運動のトレーニングになります。さまざまな筋肉を動かすことが脳に刺激を与え、発達を促します。

まとめ

発達障害のある子供がスイミングスクールに通うことは、身体的、精神的にさまざまなメリットがあります。スイミングによる身体的な運動刺激が脳の発達を促すことは、さまざまな研究結果でも報告されています。

水中運動による効果は、子供がスイミングを楽しむことによってさらに増していくもの。子供の不安をできるだけ取り除き、安心して楽しくスイミングを続けていけるように、スイミングスクール選び、コーチとの信頼関係作りなど、環境を整えることでサポートしていきましょう。

子供にとっては泳ぐことで得られるメリットはもちろん、コーチや仲間との出会い、目標を達成したときの喜びなど、スイミングを通してさまざまな経験をすることができます。成長期の子供にとって、スイミングでの体験は心身ともに確実に成長につながるもの。ぜひ泳ぐことを楽しみながら、目標に向かってがんばって欲しいですね!

 

~監修者からヒトコト~

JUNICHI.K
JUNICHI’S EYE(パラリンピック3大会連続ゴールドメダリスト)
障害者差別解消法の趣旨から、障害者の受け入れはスイミングクラブの努力義務となっています。障害者およびその家族とスイミングクラブが、「ニュートラル」に「対等」に話ができるようになったらいいなと思っています。