早生まれはスイマーにとってお得? それとも損? [後編]

子供が選手コースにステップアップすると公認大会への参加機会が増えます。

そこでたびたび話題となるのが、「早生まれって得なの? それとも損なの?」というテーマ。

そもそも「早生まれ」とは何なのか?
スイマーにとって早生まれは有利なのか、不利なのか?

今回の記事では、ジュニアスイマーの保護者目線・水泳競技経験者の両目線から、早生まれと水泳に関する疑問についてまとめました。

後編では、ポジティブ及びネガティブの思考の形成プロセスと、筆者の経験談を中心にお伝えしていきたいと思います。

1.ジュニア選手の思考を形成する親の思考

ジュニア選手の思考を形成する要因には、親の影響がもっとも大きいと言えそうです。

ネガティブ思考を形成するメカニズム

早生まれであることが、一時点での体格差において不利となる可能性については否定できません。

だからといって、「早生まれは不利、できなくても仕方ない、かわいそう」などの言葉を浴び続けて育った子供の思考には、どのような癖がつくでしょうか?

間違いなくネガティブな思考の癖がつくでしょう。

「自分は同学年の人たちと比べて不利、だから勝てなくて当然、がんばっても意味がない、努力しても無駄だ」といった言葉が選手本人の口から出てきたとすれば要注意です!

親としては、同級生と比べて遅れをとるわが子の姿を目にすると、「かばってあげたい、慰めてあげたい」と思うのが自然だと思います。

しかし、その心理に基づく行動が、知らず知らずのうちに甘やかしにすり替わり、ネガティブ思考は形成されていくものと思います。

ポジティブ思考を形成する言葉のチョイス

それでは、どのように言葉を掛けてあげるのがよいのでしょうか?

100%間違いない、という魔法の言葉は存在しませんが、例えば以下のような声掛けを参考にしてみてください。

「気にする必要はないよ。いずれ追いつくことだから諦めずにがんばろうね。」

ポイントは、仕方がないと“諦め”に同意するのではなく、同級生に対する引け目を“ファイティングポーズ”に変えられるような声掛けをしてあげることだと思います。

子供のフリ見て親のフリ直せ

子供は親から知らされることで「早生まれは不利なんだ」と意識し始めるものと思います。

厳しい見方をすると、「自分の子供が周りに遅れを取っていると感じた不安を、早生まれのせいにすることで自分が安心したい」という心理が、親の行動に表れているのではないでしょうか。

わが子を想う親の立場に立って考えると責められるものではありませんが、不安のより所は配偶者間に留めておいて、子供にはむしろ「気がつかせない」くらいのほうがよいと思います。

2.学童新記録から日本代表までの回顧録

学童時代の「早生まれ」記録更新問題

前編でもお伝えした通り、筆者は3月生まれの早生まれです。

他人との比較を気にする性格ではなかったようで、「他人より能力が劣っている」と同級生に引け目を感じた記憶はなく、むしろ「兄(4学年上)と対等」くらいに思っていました。

身長に関しては、高学年になる頃には後ろから2番目にまで伸びており、フォークダンスでは男子役に回されることのほうが多く残念に思っていたくらいです(笑)。

このように、3月生まれでありながら同級生に引けをとらない体格に育ったことは、水泳選手としてはありがたいことでした。

そのような中で、早生まれであることを初めて意識したのは小学校6年生の時です。

この年の8月、初めて日本選手権に出場しました。さすがに決勝に残ることはできませんでしたが、400m個人メドレー予選で「学童新記録」を出すことができました。

これに続いて、200m個人メドレーでの記録更新も期待されましたが、学童新記録としてが認められる6年生最後の3月の大会までには届かず、記録更新にはいたりませんでした。

そのときに母が、「早生まれだから損よね、あと2週間遅く産めたらよかったのに」とつぶやいたことを憶えています。

ここで少し、新記録の規定について整理してみましょう。学童記録として扱われる記録は、最低限以下の条件を満たす必要があります。

学童記録認定の規定(抜粋)
  • 小学6年生3月末までの記録
  • 長水路での記録

3月生まれの場合、満12歳の誕生日から1ヶ月足らずのうちに学童期間が終了します。

ところが、4月生まれの場合、満12歳の誕生日から11ヶ月間が対象期間となるわけです。この時期の11ヶ月の差は、小さいとは言えません。

筆者自身の記録を見てみると、12歳11ヶ月時点(中学1年2月)の記録は、当時の学童記録を上回っていました。母の発言は、こうなることが予想できたからこその発言でした。

とはいえ、当の本人が「ふーん、そうなの?」と、“どこ吹く風”でしたので、落ち込むこともなく済んだのでした。

日本代表選抜で「早生まれ」のお得を実感

中学生になってからは、年齢・学年による区別のない大会への出場機会が増えました。こうなってくると、もはや年の差は関係ありません。

また、女子選手の場合、高校生になる頃には身長がほぼ伸び切ります。

筆者は、この時点で周囲の選手より身長が高かったこともあり、結果として、早生まれを意識する必要がまったくありませんでした。

逆に、同学年の中で誕生日を迎えるのが一番遅いということで、得をしたことがありました。

当時、筆者の同学年には多くの日本代表クラスの選手がいました(話の折に触れ、代表で切磋琢磨してきた同級生を、尊敬と親しみを込めてご紹介いたします)。

  • 長崎 宏子 選手(平泳ぎ)
    小学6年生でモスクワ五輪代表に選抜
  • 緒方 茂生 選手(自由形)
    中学生でロス五輪代表に選抜
  • 不破 央 選手(平泳ぎ)
    中学生で日本代表に選抜
  • 藤原 勝教 選手(自由形)
    高校生で日本代表に選抜
  • 武田 聡 選手(個人メドレー)
    大学生でソウル五輪代表に選抜

中学2年生の秋、インド・ニューデリーで開催された「アジア大会」の代表に選ばれたときのことです。水泳以外の競技も含めた日本代表選手団の中で、中学2年生のメンバーは最年少でした。

さらに、その中でも早生まれの筆者は、同学年の中でも最年少。つまり数百人の日本代表選手団の最年少者ということで、新聞記事に取り上げていただいたのでした。

その後もしばらく、競泳日本代表チームでは最年少という時期が続きました。

チームの一員として行動する中で、年少ゆえにいたらぬ点が多々あったはずですが、先輩方からかわいがっていただけたことは、早生まれで得したことの一つだと思っています。

3.ロス五輪競泳元日本代表選手の早生まれ率

ここまで述べてきた通り、早生まれは不利なことばかりではありません。とはいうものの、わが子のこととなるとやはり心配……という方も多いでしょう。

そのような不安を払拭していただくため、ロス五輪競泳元日本代表選手41名の早生まれ率を調べてみました。

グラフが示す通り、早生まれに該当する1~3月生まれの代表選手の割合は27%でした。

この年に限っての結果ではありますが、誕生月を学年の前後半で分けた場合、早生まれを含めた後半に誕生日を迎える選手の割合のほうが多いことがわかります。

また、早生まれのオリンピアンといえば、鈴木大地・現スポーツ庁長官です。大地長官の誕生月は3月ですが、周知の通り、1988年ソウル五輪・男子100m背泳ぎで金メダルを獲得しました。

そのほか、今なお日本記録を出し続けているマスターズ水泳のレジェンドも、早生まれのスイマーでいらっしゃいます。

これらの事実から推察できることは、早生まれがスイマーにとって損であることはなく、仮にあったとしても、それは“競技人生の入口での些細な出来事”と言えそうです。

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2019年4月18日

4.まとめ[後半]

後編では、ポジティブ及びネガティブの思考の形成プロセスと、筆者の経験談を中心にお伝えしてまいりました。

水泳競技の場合、体が大きいことに越したことはありませんが、それが必ずしも有利になるとは限りません。また、記録が伸びる時期には個人差があります。

現役のトップスイマーにも見られるように、高校生くらいまでは目立つことがなかったけれど、諦めずに続けていたら大学生になってから飛躍的に記録が伸びたということが、今は当たり前になりました。

ですので、あまり心配し過ぎることなく、おおらかな気持ちで子供を見守ってあげてくださいね。

最後に……早生まれの立場で選手生活を送ってきた筆者ですが、「早生まれはスイマーにとって得なの? それとも損なの?」と聞かれることがよくあります。

そんなときは、「得でもあり損でもある、どちらかというと損かなぁ。でも、最終的には関係ないと思う。」と答えるようにしています。