スイミングで頭が良くなる? 水泳と脳科学の気になる関係

スイミングが身体の発育にとって効果的であることは周知の事実ですが、脳の発育にとっても効果的である、という事実をご存知でしょうか?

幼少期のうちにスイミングを始めておくと、その効果は顕著に表れると言われており、子供の教育に関心の高い親からは常に高い注目を浴びています。

この記事では、スイミングと脳科学の気になる関係について、学術的な視点を交えて解説をしていきます。

1.脳の発育から見たスイミングを始めるタイミングとは

一般的に、脳の発育の観点からスイミングを始めるボーダーラインは、「12歳まで」と言われています。人の脳は3歳までの間に80%が完成するため、始めるタイミングは早ければ早いほど効果が高い、というものです。

スイミングスクールでは0歳児から始められる「ベビークラス」も多くありますので、これらを利用してスイミングを始めるのも良いきっかけと言えるでしょう。

スイミングスクールにはいつから通い始めるのがベストか

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なお、スイミングだけでなく、ピアノ・英語・体操・ダンスといった人気の高い習い事も12歳までに始めることがお勧めです。

ちなみに、スイミングと並んで常に高い人気のピアノは、楽譜を読みながら左右で異なる指の動作を行うため、脳の発育に対する効果が非常に高く、情報処理能力や記憶力の向上にも抜群に良い影響をもたらすと言われています。

また、近年人気が高まっているダンスは、音楽に合わせて「動く・止まる」動作によって、「脳の運動野」が鍛えられ、頭の切り替えが速くなるほか、コミュニケーション能力の向上にも効果があるそうです。

2.スイミングと空間認知能力の関係

人の発育を知る上で、もっともよく知られているのが「スキャモンの発育曲線」です。スキャモンの発育曲線では、20歳を大人の身体と考えたときに、何の要素が、いつ、どのように成長するかが表されています。

引用:【応用】スキャモンの発育曲線-SGS総合栄養学院

幼少期に運動経験を必要とする理由

ここで、スキャモンの発育曲線について、詳しく見ていきましょう。まず、グラフの弧を描く曲線は、次の4つの型に分けられます。

  • 一般型
  • 神経型
  • 生殖型
  • リンパ型

一般型は、身体の大きさを表しています。多くの人は、出生後に最初の成長があり、小学校高学年から中学生頃にかけて2回目の成長(第二次性徴)を遂げ、20歳で完成を迎えます。

神経型は、4つの型の中でもっとも速く完成を遂げます。生後6歳頃までに急激に成長し、13~14歳の頃にはほぼ完成すると言われています。

生物を高等動物と下等動物とで分けた場合、高等である場合は親と同じ形で生まれ、出生後わずかな時間で親と同じ動作を習得すると言われています。

人は高等動物に分類されますが、他の高等動物と同じように大人と同じ形で生まれるとなると、第二次性徴手前の時期まで母親の胎内にいなければならなくなります。これは不可能です。

それではなぜ人は高等動物でありながら、大人と異なる形で生まれてくるのでしょうか?

それは、人が高等過ぎる動物であるためです。人は未熟な形で生まれ、出生後長い月日をかけて成長していきます。

そして、未熟な形で生まれるがため、幼少期に神経型が急激な発達を遂げるのです。ゆえに、この時期には運動に関するあらゆる機能が発達すると言われています。

運動神経のメカニズム

そもそも運動とは、生理学的には「筋肉が収縮すること」と定義されています。

筋肉の収縮には、自分の意思で行える「随意運動」と、意思とは関係なく筋肉が収縮する「不随意運動」とに分けることができます。

さらに、人の動作に関連する筋肉を「骨格筋」と呼び、骨格筋のすべては「随意筋」にあたります。そして、心臓などの臓器は「不随意筋」にあたります。

ここでようやく脳と神経の出番です。随意運動の仕組みは、大脳が意思を判断し筋肉に指令を送ることで成り立っています。そして、その指令を伝達する役割を神経が担っています。

Mr.ブレイン
こんな感じの動きをよろしくー。
マッソー君
はーい、やってみまーす!

つまり、脳を司令塔とした神経と筋肉の協調能力が、身体を動かすということの結果に大きく影響するのです。

脳の喜びが増幅する「ゴールデンエイジ」

スポーツの世界では、神経型の急激な発達時期を「ゴールデンエイジ」と呼び、この時期に複雑な動作を数多く習得することで、将来、運動に万能な人へと成長することができる、と考えられています。

神経の発達がもっとも盛んな時期に、複雑な動作を実現したいという課題を脳にどんどん送ることができれば、脳はその課題解決に向け筋肉への伝達経路を無限に増やそうとがんばります。

脳は新しい動きのイメージを筋肉へ指令し、指令を受けた筋肉がイメージ通りに動いてくれたときには大喜びをしておかわりを望む、というわけです。

脳のメカニズムは完全には解明されていませんが、この現象は一生続くと言われており、神経型の発達が著しいゴールデンエイジでは、脳の喜び方も半端ないものに違いありません。

したがって、この時期にはより多くの複雑な動作、スポーツの体験を積むことが理想です。

「小脳」は認知能力を高めるデータバンク

前項でお伝えした脳とは「大脳」を前提としてきましたが、脳には「小脳」があることも忘れてはいけません。

大脳は、常に小脳と連携しながら、運動のイメージと実行の指令を繰り返し行っています。それに対し小脳は、習得した動きを記憶にとどめる機能と、空間を認知する役割を担っています。言うなれば、小脳は人の身体に内蔵された「データバンク」のようなもの。

したがって、日常とは異なる環境であらゆる動作に適応するトレーニングを繰り返し行えば、空間・対物に関する認知能力が優れ、理論上スポーツ万能キッズを育てることが可能となります。

スポーツ万能キッズを育てる3種類のスポーツ

現実には、何のスポーツをさせるべきでしょうか?
その答えはズバリ! 次の3種類のスポーツです。

  1. 体操競技
  2. 球技
  3. スイミング
  1. 体操競技
    人の生活は陸上で行うことがほとんどであることを考えると、陸上でのあらゆる動作を習得しておく必要があります。
    その点、体操競技であれば「走る」「跳ぶ」「回る」「支える」など、陸上でもっとも難しい動作を一通り行うことから、空間認知能力を研ぎ澄ますスポーツとして最適と言えます。

  2. 球技
    ボールは「コントロールする」ことが難しい物体であることから、どれくらいの速さで、どの方向へ、どのようにして運ぶのかを、自らの筋肉を使って実践する必要があります。
    体操以外のスポーツを経験しないまま第2次性徴を迎えた場合、いわゆる「球技音痴」になる可能性が高まるため、そうならないためにも球技は経験しておきたいスポーツの種類です。

  3. スイミング
    重力から身体を解放し、水の抵抗を最小限におさえ、なおかつその抵抗を利用して移動する「泳ぐ」という動作は、スイミングならではの動作です。
    水中の空間認知能力が陸上で備わる、ということは間違いなくありませんので、スポーツ万能と呼ぶためには、水泳の習得が必須です。

体操・球技の2種類の競技を高いレベルで訓練することにより、陸上で活躍できる子供を育てることができますが、現に陸上で活躍するアスリートでも適応できない環境が、唯一水中です。

陸上と水中、両方において優れた空間認知能力を備えることができれば、スーパーキッズの誕生も夢ではありません。

球技・水泳の2種類の競技を同時に習得したい場合には「水球」という選択肢がありますよ。

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3.水泳が脳にもたらす効果とは

スーパーキッズとまでいかなくても、子供には心身ともに健やかに成長してもらいたいもの。ここでは、スイミングが脳にもたらす種々の効果について触れていきたいと思います。

  • 空間認知能力の向上
  • 集中力の向上
  • 癒し効果

あらためて、空間認識能力とは、「物体の位置や大きさ、形、距離など三次元空間を素早く正確に把握する能力」のことです。空間認識能力が高まると、スポーツのみならず算数などの図形問題が得意となる傾向にあります。

次に、集中力の高まりがあげられます。スイミングの場合、動き続けていなければ沈んでしまう、という陸上にはない状況があります。正しいフォームをキープしながら途切れることなく次の動作をし続けるため、集中力が高まると言われています。

最後に癒やし効果です。水の感触や適度な水温は母親の胎内を想起させ、精神安定作用のある脳内物質「セロトニン」を多く分泌させると言われています。

子供と言えど多くのストレスを抱える現代社会。スイミングは脳をリラックスさせ、明日の活動へと活力をチャージしてくれる、心のサプリメントとなるはずです。

「セロトニン」

脳内の神経伝達物質のひとつで、ドパミン・ノルアドレナリンを制御し精神を安定させる働きをします。
必須アミノ酸トリプトファンから生合成される脳内の神経伝達物質のひとつです。視床下部や大脳基底核・延髄の縫線核などに高濃度に分布しています。
他の神経伝達物質であるドパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)などの情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあります。

引用元:e-ヘルスネット-厚生労働省

4.まとめ

今回の記事では、スイミングと脳科学の気になる関係について、学術的な視点を交えて解説してまいりました。

脳の発育から見ると、幼少期にスイミングを始めるタイミングとしては、少なくとも12歳までに始めることがお勧めと言えます。特に、水中の空間認知能力の発達にとってスイミングは不可欠と言っても過言ではありません。

子供に期待を寄せるあまり、あれもこれもと始めることは返って非効率を生むことになりかねませんが、できることならば、陸上で行う球技などのスポーツにも取り組むことが理想です。

幼少期にスイミングを始めた子供の中から、将来の日本を牽引するスーパーキッズが生まれることを期待したいと思います。

 

~監修者からヒトコト~

JUNICHIRO.T
JUNICHIRO’S EYE(スポーツ健康科学 博士)
昨今の競泳の指導現場では、水中での姿勢や動作練習の前に、陸上で確認を行うことが主流になっています。水中での空間認知はトップスイマーですら難しい、ということがうかがえます。