水泳選手にとっての水着とは ~書評『水を打つ』(再編集)

2020年の東京オリンピックを控え、今から日本人水泳選手のメダル獲得に注目している人も多いのではないでしょうか?

また、東京オリンピックからは「男女混合メドレーリレー」が正式種目となりました。個人種目とは異なるレース展開にも期待が高まりますよね。

この記事では、競泳種目の中でも特に熱い「リレー」をめぐって複雑に絡み合う選手の人間模様を描いた小説『水を打つ』(堂場瞬一著/実業之日本社文庫)をご紹介したいと思います。

1.作品のあらすじと見どころ

舞台は架空の東京オリンピックを翌年に控えた日本。矢沢大河、今岡肇、小泉速人の3人の水泳選手を中心に物語は展開します。

主人公の矢沢大河は日本記録を保持する25歳の自由形選手。前回オリンピックではメドレーリレーにも出場したものの、僅差でメダルを逃しており、次のオリンピックでのリベンジに燃えています。

もう一人の主人公と言えるのが29歳の今岡肇。前回オリンピック平泳ぎの銀メダリストですが、ケガと年齢的な体力の衰えにより伸び悩んでいます。

そして、新型水着を身にまとい、18歳の高校生でありながら平泳ぎの日本記録を更新し続ける小泉速人。彼の存在が、同じ平泳ぎの今岡だけでなく他の選手を巻き込んで行くところが見どころの一つです。

2.水泳選手にとっての水着とは

本作はメドレーリレーをテーマにした小説ですが、小泉の着用している新作水着『FS-1』が物語のキーを握っています。

『FS-1』を着用した選手は次々と記録を更新し、多くの選手がこぞって水着の乗り換えに走ります。2008年の北京オリンピックで新記録を量産した水着『レーザーレーサー』(speedo)を彷彿とさせますね。

そんな中、主人公の矢沢は水着にはこだわらず「素っ裸で泳いだ方が絶対速い」と言い放ちます。

そして物語は、クライマックスへ……!

競泳は100分の1秒を争う競技。わずか0.01秒の差が、その後の人生に大きな影響を与えます。そう考えると、「少しでも優位に立ちたい」と思う選手の心理は否定できません。

高速水着がすでに市民権を得ている現実の世界では、むしろ「着用しないことでハンディを被りたくない」という心理のほうが実態に即していると言えるでしょう。

3.現在の高速水着事情

現在、高速水着はスイマーの必須アイテムとして定着しています。利用者の年齢層は実に幅広く、小学生のジュニア選手からマスターズスイマーまで、試合会場で見ない日はありません。

まだ高速水着がなかった時代の親スイマーの立場からは、「水着の力に頼る以前に、実力をつけることへ奮励してほしい」という声が聞かれます。

しかし、その一方で「子供に不憫(ふびん)な思いをさせたくない」という親心が、胸の内で葛藤していたりするのではないでしょうか?

水泳選手の水着問題は今もなお、そしてこれからもずっと、なくなることはなさそうです。

4.まとめ

今回の記事では、競泳を題材にした小説『水を打つ』(堂場瞬一著/実業之日本社文庫)をご紹介いたしました。

その内容は、「勝ちたい」という人間の欲求の裏で、終わりなき開発競争を繰り広げる高速水着メーカーへの、ある種の問題提起というふうにも見ることができます。

水着に限ったことではありませんが、水泳選手にとって道具選びは結果に関わる重要な要素です。しかし、最高の道具で最高の結果を得るためには、そこにたどり着くまでの日々の積み重ねが大切であることは言うまでもありません。

オリンピック前に本作を読んで、水泳選手の厳しい努力やさまざまな苦悩に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 

~編集長からヒトコト~

YUICHIRO.U
小説のジャンルとしては数少ない、水泳競技を題材にした作品です。
上下巻の長編でありながら、一気に読み終えることができますよ。